2011年1月22日土曜日

東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案について(全文録)

東京都が漫画家、およびコミック10社会の抗議に対し送付した2010年6月2日付の返答・説明書です。
東京都はこれを持って「説明責任は果たした」としたようです。
東京都のサイトより削除されたようなので、テキストデータとして収録いたします。




平成22年6月2日
漫画作家有志殿
コミック10社会構成出版社御中
東京都青少年・治安対策本部

東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案について

1 はじめに
私どもは、漫画家の皆様及び出版社の創作に対する情熱とたゆまぬご努力、多様で活発な執筆・販売活動を通じ、これまでに数々の優れた作品が生み出され、子どもはもちろん、大人に対しても、勇気や感動、知識など多くのものを与え、また世界的にも高い評価を受けていることに、多大なる敬意を抱いております。また、表現の自由が民主主義の根幹であり、漠然・不明確な規制や過度に広範な規制が違憲無効であることもよく承知しております。
また、都においては、漫画を含む図書類のうち、性的刺激の強いものや残虐性の高いものなどについては、青少年の健全な成長を妨げるおそれがあることから、昭和39年の青少年健全育成条例制定以来、そのような図書類については、可能な限り出版社や書店の自主的なご努力に基づいて、青少年に見せたり売ったりしないよう、成人コーナーに置くなどのご努力をしていただいてきました。出版社や自主規制団体の方々のご尽力により、特に表示図書として相当数の漫画等を成年向け表示・包装の上で成人コーナーに置いていただいていることに、心より感謝申し上げます。

一方、自主的なご努力によっては成人コーナーに置いていただけなかったもの
のうち、著しく性的刺激の強いものなどについては、個別に都が内容を確認し、出版団体等のご意見を聴取した上で、東京都青少年健全育成審議会のご意見をいただいた上で、不健全図書として指定し、成人コーナーへ移すことを義務付けるという制度をとってまいりました。これは、包括指定制度を併用している他府県に比べても慎重な手続きであると考えております。

この制度は、あくまで青少年への販売規制に止まるものであり、作品を執筆すること、出版すること、青少年以外に販売することを規制するものではありません。なお、このような制度は、長野を除く全ての都道府県の条例に置かれており、合憲であるという最高裁判決も出ております。

もちろん、創作者、出版社のお立場としては、どのような形であれ、創作・出版に関連することについて、条例に新たな規定がおかれることに抵抗を感じ、反対の立
場を取られることはよく理解できますし、そのようなお考えをないがしろにしようとするものではありません。
しかし、皆様方の手による作品が出版され、世に出るということは、それが青少年を含めた全ての人の目に触れ得る状態に置かれる、ということです。また、ある作品を創作し、出版する行為は、その作品の表すメッセージ、作品から伝わるメッセージを、不特定多数の読者に届ける行為だと言えるのではないでしょうか。

そのような中で、残念ながら、青少年問題協議会等において、現在の条例の基準には該当しないため一般向けの書棚に置かれている漫画類の中に、「現実ならば同意があっても強姦罪に相当するような年齢の子どもが大人を性交に誘い、快楽を感じている」「親子や兄弟姉妹が『愛』の名の下に激しく性交する」シーンばかりが含まれているもの、つまり子どもを性欲の対象としてのみ扱ったものが含まれているものが存在すること、そのような漫画などが子どもの性的な判断能力を歪ませるおそれがあることが指摘されています。

これは、「勇気」や「友情」をテーマにした漫画を読んで、子どもが「勇気」や「友情」の大切さを知り、自ら勇気をはぐくみ、友情を大事にしようとするのと同様に、そのような性行為をテーマにした漫画を、性的な経験や知識が未熟な子どもが読んだとき、子どもが「子どもであっても大人とセックスするのが普通なんだ」「親子や兄弟姉妹でも愛があればセックスしていいんだ、気持ちよければいいんだ」というメッセ
ージを受け取り、程度を問わずそれを自らの中に取り込んでいくおそれがあることを
懸念しているものです。

個々の創作者、出版社として、上に挙げたような内容の作品を世に出したい、そのような作品を読みたいという読者の思いに応えたい、という思いを持たれることまでを否定するものではありません。そのような内容の作品について、性的判断能力が成熟した大人が、「実際にはあり得ないこと、あってはいけないこと」と理解しつつ、性的なファンタジーとして読むことについて否定するものでもありません。

しかし、一旦出版された以上、読者となり得る者の中には子どもが含まれることとなります。さらに、漫画等は、低年齢の子どもも興味を持って手にとりやすく、また直接的に視覚的インパクトを与えるものであることを考えれば、このような内容の漫画等が青少年の性的な判断能力に与える影響を懸念し、青少年に見せないようにしたい、という保護者や大人としての思いが現に強く示されていることについては、一定のご理解をいただけるのではないかと存じます。
条例改正案は、青少年の性行為を描くこと自体を否定するものではありません。

青少年の成長過程の中で、その年齢に応じ、性に関する思いや描写に触れ、そのことにより性的な判断能力を得ていくことは必要なことであると考えます。しかし、青少年の年齢を問わず誰でも読むことができる書棚に置かれている限り、そのような年齢に応じた性的な成長ステップを踏む前の子どもが、いきなり先に述べたような、社会的に許されていない性行為がさも当たり前であるかのような表現を含む漫画等を手に取ることができるのも事実であり、このことの意味についてご留意いただければと考えております。

また、これまでに、漫画家の方から、出版社における「過剰な自主規制」により、作品自体を描いたり出版できなくなることへの強い御懸念を抱いていることを伺ってまいりました。都は、条例上に根拠のない自主規制を求めるものではありません。例えば、「18歳以上である」と明らかに設定されているものが「見た目が幼い」などの印象で規制の対象になるということはあり得ません。そのような設定のものに対してまでも過剰に自主規制されることのないよう、事前に、十分に出版社の方との共
通認識の形成に努めてまいります。

繰り返しとなりますが、この条例改正案は、青少年の性行為を描くこと、そのような漫画を出版すること、青少年以外の方に販売することを規制するものではありません。しかし、出版という行為に必然的に伴う社会的影響にもご配意をいただき、その内容が、青少年を無闇に性欲の対象とすることを肯定するようなものであれば、それは大人向けの性的ファンタジーとして、大人だけが読めるコーナーに置いていただくよう努めていただきたい、それだけをお願いしようとするものです。

2 条例改正案の内容について
(1)「非実在青少年」の定義について
「非実在青少年」については、反対声明において引用していただいたとおり、「そのキャラクターの年齢や学年が絵や台詞で表現されている場合」や「小学校や中学校の校舎で授業を受けているシーンがある」場合などに限定され、「見た目が子どものように見える」「声優の声が18歳未満のように聞こえる」だけでは該当しません。条文案はこの趣旨を表したものですが、条文のみではそのように受け取ることができないという御懸念にお答えし、条文の解釈として、都議会にお
ける答弁や都のホームページに掲載した質問回答集において、都としての公的見解として明らかにしており、都はこれに従った運用を行うことをお約束しているものです。なお、不健全図書指定制度については、事前に出版関係等の自主規制団体のご意見を伺った上で、東京都青少年健全育成審議会の意見を聴き、それに従って指定を行うものであり、都による恣意的な解釈や運用は排除されております。

(2)条例の目的について
条例の目的は、反対声明において引用していただいた「青少年の環境の整備を助長するとともに、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、もって青少年の健全な育成を図ること」です。青少年の健全な育成を阻害するおそれのある図書類について青少年に販売等しないようにする制度についても、青少年がそのような図書類を読んだ場合に受ける影響を考慮して行うものです。

(3)条例の影響について
東京都の条例の効力は東京都内に止まるものであり、他の道府県には効力を及ぼしません。なお、長野を除く他の全ての道府県においても、一定の図書を子どもに見せないようにするための制度があり、その多くは東京都と異なり、「性行為の描写の分量」等に基づいて包括的に指定する制度を取っています。
(4)「屋上屋を重ねる規制であり、表現の自由を脅かす」というご指摘について現行条例の不健全図書指定基準(条例第8条第1項「性的感情を著しく刺激する」、条例施行規則第15条「全裸若しくは半裸又はこれに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものである」)は、長年にわたる不健全図書指定制度の運用の中で、自主規制関係団体など関係者の皆様との共通認識の積み上げに基づき運用されてきました。この中で、どのような描写が「全裸若しくは半裸又はこれに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるか」ということについては、性器の描写の明確さや、擬音や体液の描写の多さ等の具体的描写の程度に基づき判断されるところが大きくなってお
ります。このため、現在、単に「全裸若しくは半裸の子どもが描かれている」「子どもの性交シーンがある」だけでこの基準に該当すると判断され、不健全図書として指定されたり、表示図書として自主的な区分陳列を求められることはありません。逆に、条文には変更がないのに、「今後は子どもの性行為描写についてはこの基準を積極的に適用する」等の解釈変更を行うことは、まさに皆様が声明でご指摘され、御懸念されている、「漠然・不明確な規制」「過度に広範な規制」を、都が恣意的に行うことに他なりません。都としては、現行基準に該当しない漫画等のうち、子どもの性的な判断能力を歪ませるおそれのある描写を含むものについて、「子どもに見せないようにする」とともに、そのようなもの以外については現状のままにとどめ、創作者や出版社への影響を最小限に止めるためには、現行基準とは別途の基準を設けることが不可欠であると考えております。

3 おわりに
重ね重ねとなりますが、都は、漫画家や出版社の方々の創作に関する熱意とご努力の結果生み出された成果物、そして自主規制に関する御協力に対し、心より敬意と感謝を申し上げるものです。一方で、日本の漫画文化が、子どもから大人を含む日本人全体、そして国際社会にまで広がり、定着した現在であっても、やはり、現在、そして未来の漫画
読者としての子どもは、皆様にとっても大切な存在であり続けるはずであると信じております。
皆様の創作・出版活動に伴って世に出される出版物が、現在の子どもを取り巻く環境を作り、子どもに影響を与え得るものであること、出版という行為は、創作者・出版者の意図や利害のみでは完結しない、社会的行為であることについてもご留意いただき、今回の条例改正案が「子どもを守る」視点からの取組であることにご理解をいただければ幸いに存じます。

http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/08_joureikaisei/mangasakka_comic.pdf

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